老舗企業の優れた技術を残すためM&Aを選択
~先を見据えた早期の判断と行動で想いを実現~
【写真】㈱大橋鉄工 大橋社長夫妻
- 譲渡企業
- 株式会社大橋鉄工
- 業種
- 金属部品製造業
- 所在地
- 滋賀県長浜市
- 譲渡理由
- 後継者不在
㈱大橋鉄工・大橋氏に
インタビュー
㈱大橋鉄工は、創業70年以上に亘り金属部品製造業を営んでいます。
高精度の金属加工技術と一貫生産体制を強みに、大手企業からも多くの受注を得てきました。
同社の代表取締役を務めていた大橋正明氏は、得意とする異種金属接合の「摩擦圧接技術」で
大学と共同研究、ものづくり補助金を獲得するなど、技術開発に積極的に取り組まれていました。
今回、後継者不在を解決するためにM&Aを選択された大橋氏にお話を伺いました。
正明様が会社を引き継いだ経緯について教えてください
大橋鉄工は、私の父が昭和29年に個人で創業しました。子どもは私と妹の2人です。
私は高校まで地元にいました。進路を検討する時、父から工業系の大学に行くように言われました。私自身が工業系の学科に興味があったわけではありませんが、大学に行かせてもらえるし、外に出てみたいと思っていたので、県外の工業系の大学に進みました。
就職活動のタイミングでは、父から会社を継いでくれと言われませんでした。このため、大学卒業後は機械メーカーに就職しました。
就職して2年後くらいのことです。父から「仕事が忙しくなってきたので戻ってきてほしい」という依頼がありました。その時、父の事業を今後自分が承継していかないといけないのかなと思い、私に漠然と後継者であることの意識が芽生えました。
この後も、正式に「継いでほしい」と言われたことはありませんが、父は私に継いでほしいと思っていたのではないかと感じています。
昭和の終わり頃に父が倒れました。
その後父の容態は回復しなかったため、平成2年頃に私が社長に就任することになりました。
引き継がれてから苦労されたことについて教えてください
父は現場の技術者であり、お金のことは親族が管理していました。
私は会社の内容は分からない状態で入社し、入社後は工場だけをみていましたが、父が倒れたことで資金繰りもみるようになりました。そうしたところ、会社の財務が大変な状況にあることに気づきました。外部環境の要因もありましたが、社内の要因が大きそうでした。社内を具体的にみていったら、昔ながらの同族経営の実態を痛感することになりました。
そこで、思い切って、会社の経営状況に応じた改革を実施することにしました。結果的に親族役員の退職につながり、会社の状況は改善していきました。
他にも、それまで一社への取引が主となっていましたので、分散のため取引先を増やす活動を行いました。さらに、受注から販売まで一貫できる体制づくりを行ってきました。この体制で、値段も自社で決められるようになれば、会社の付加価値をもっと高められるのではないかと思ったからです。
最近では、大学と共同研究で、摩擦熱を応用した金属接合技術の開発に取り組みました。異種金属の組み合わせは、幅広い領域で実用できるポテンシャルがあると考えています。
金属接合技術(新規事業)と精密機械加工(既存事業)の融合で新たな商品開発を行い、加工請負業から技術開発提案型企業へ進化していけたらと思います。
会社を譲渡しようと思った経緯について教えてください
事業承継については、4、5年前から考えていました。
私には娘が2人おり、それぞれが結婚しているのですが、1人は海外で暮らし、もう1人は公務員に嫁いでいたので、身内に引き継ぐことはできないと考えました。
次に従業員を考えたのですが、従業員は年齢的にまだ若く、そちらもすぐには難しいと感じました。そうこう考える矢先、私が健康診断で引っ掛かり、体調に不安を感じるようになりました。
最悪の事態も想定した時に、従業員のこと、取引先のことを考えたら、廃業はあまりに無責任、その選択肢はありませんでした。
いろいろ相談に行き、さまざまな選択肢がある中で、信金キャピタルさんとのご縁に繋がりました。事業承継にはもっと時間がかかるものと想定していたのですが、信金キャピタルさんは非常に早く動いてくれて良かったです。昨年の11月から具体的に動き始めて、今年の6月にはM&Aできる状態に仕上げてくれました。
M&Aを進める中で重視したことを教えてください
どの会社も同じかもしれませんが、重視した条件は、従業員の雇用継続と取引先との取引継続。この2点だけは守ってほしいと考えていました。他は特に意識したところはありませんでした。この2点をしっかり受け入れてくれる会社とご縁があり安心しました。
会社の評価額については、正直自分では分かりません。根拠もなく、高くしてくれともまけてくれとも言えないと思います。この点、信金キャピタルさんから評価額について根拠を持って示していただいたので納得できました。
あと、心配していたのは従業員の反応です。
言うタイミングもあります。早すぎても遅すぎても良くないと思っていました。キーマンの4、5人には最終契約の直前に基本的な内容を話しましたが、反応としては問題ないように見受けられたので安心しました。
他の従業員にも、タイミングをみて自分で説明しました。私が思っていたより皆冷静でした。
今も大きな問題は発生していませんので、スムーズに承継できていると感じています。
同じ立場の経営者の方々へアドバイスをお願いします
アドバイスなんて言うほどのことはありません。
ただ、今回のM&Aで感じたことは、「自分も会社も、両方とも体力がないと引き継げない。」ということです。
今日何も問題がなくても、明日も問題がないという根拠はありません。
良い方向ばかりではなく、悪い方向にも考えておかないといけないですよね。
私は軽く済んで良かったと思います。おかげさまで体調は回復し、今は引き継ぎのため毎日出社して、これまでと同じ時間軸で動いています。
顧問として、できる限り長くいてほしいと言われていますが、1年ごとの更新なので、どこかのタイミングでは退いていこうと考えています。
経営者自身にも体力があり、会社にも体力があるうちに引き継ぎを完了させておいたほうが絶対に良いです。
担当コンサルタントからのコメント
私たちに対し「非常に早く動いてくれた」と有り難い言葉をいただきましたが、それはまさに私たちから大橋前社長へお伝えしたい言葉でもあります。お仕事でお忙しい中でも、依頼したものはすぐに返していただきました。
それだけ会社のことを把握されていらっしゃる社長だからこそ、従業員や取引先からの信頼も厚く、今回のような良いご縁も引き寄せられたのだと感じています。
取り組まれている異種金属接合技術の開発は、独自の技術で世の中に貢献したいという社長の想いを体現したものです。M&Aにより、このような優れた技術が後世に引き継がれていくことを願います。